芥川賞・直木賞予想

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
最近寒いですね。毎日「今年一番の寒さ」って言葉聞いてる気がしますが、ずっと寒いのであんま変に煽らず、そっとみんなで耐えたいと思うものです。

さて、早速今年一発目の長文。
記念すべき第150回の芥川賞・直木賞の発表が明日の16日に迫っています。
そこで、今回も候補作を前読みしちゃって受賞作を予想しよう的なやつです。
もうここ5年ぐらいやってますが、受賞作が決まるのが半年に1回なのでまぁ毎回こんなひっそりとしてます。ただ、個人的にはここ4回全部受賞作当ててたりするので、読書の参考にでもしてもらえればうれしいなと思います。
ちなみに直木賞候補は今回も人気で借りれなかったので、いつものように大賞が決まった後にゆっくり読もうと思っていますゆえ、ここでは触れません。ご容赦ください。

早速、今回の候補作から。

いとうせいこう 「鼻に挟(はさ)み撃ち」(すばる12月号)

岩城けい  「さようなら、オレンジ」(太宰治賞2013)

小山田浩子  「穴」(新潮9月号)

松波太郎  「LIFE」(群像7月号)

山下澄人 「コルバトントリ」(文學界10月号)

こんな感じです。毎回下半期の候補は年明けてから出るのですが、今回からなのか候補が12月の終わりに発表されて、発表までに1カ月とやや間延びした感じを個人的には受けています。ただ発表までに時間があれば、それだけ候補を読んで自分でこのように予想とかも出来るし(特に直木賞は大作が多いですからね)出版界や本好きの方にとってはいい傾向なのかもしれません。

候補が出たときに、結論から言うと小山田浩子で決まりかなとか思ったのですが、読んでみると意外とそうでもなく、飛び抜けた印象の作品がなかった分、選評も難航するのではという感想を持っています。あと、すばるという集英社から出てる文芸誌を扱っている図書館が極めて少なく、結果として候補の1つであったいとう氏の作品を読めないというミスが起こってしまいました。万が一いとう氏の作品が取ることがあればこれは僕の完全な敗北ですが、いとう氏はないと思いたいです。ただ前回も候補に入って、なんか好意的に評価してる委員もいたんで、変な色とか150回記念という事で話題性を持たせるために名の知られた人が取る可能性が往々にあり、これは僕が考える一番キツいシナリオですがとにかくそんな悲劇に少しびびってます。というか、今まですばるから候補になった時にどうやって読んでいたのか思い出せないほうがもっと怖いのかもしれないとそう思ったりもします。(近所の図書館が扱いを止めた線が一番有力かと思われます)

4作まとめて紹介します。

まずは、受賞作の筆頭と思われた小山田浩子の『穴』から。
舞台はとある県(都市から少し離れた)。その県の都市部からさらに田舎にある夫の両親の家の隣に建つ借家に引っ越して来た主人公の「私」とその周辺の人たちについての物語です。物語は私の一人称で進むとてもシンプルな形をとります。
また、登場人物も夫の両親と祖父、隣人の世羅さん一家、後にキーパーソンとなる結婚当初から「私」に存在が隠されたいた夫の兄と、これまた鍵となる謎の怪物といったような、少し奇妙ではありますが、無駄のなさが際立ちます。
物語は引っ越しを機に専業主婦となった私が、引っ越し後のルーティーンともいうべき、義理の家の人や近所とのうわべ的な関係作りだとか、スーパーやコンビニなどの地理を把握するために家の周りを歩き回ったりすることを中心に進んでいきます。
ある日家の近くを歩いていると、前述した謎の怪獣(形は犬とか狸のような四足歩行の動物)と出くわし、後を追って行った私は、「穴」にはまってしまいます。(説明のままで、落ちるというほどの深さのない、抜け出すのに少し苦労する人ひとりがすっぽりと直立の状態で入れるくらいの穴)
さらに別の日にも同じ怪獣と出くわし、後を追っていくと、夫の兄という紹介された覚えのない人物に出会ったりという形で続いていきます。
この作品の凄いところは、肉眼では把握できないような細かい部分を、ある種の美しさを備えたまま記述する作者の丁寧な筆力だと思います。匂いとか景色を想起させるとかの類とは少し違った、単純に言葉でイメージを操作する上手さが目立ちます。例えば庭に広がるバジルを見て「齧ると歯まで緑に染まりそうで、とても食べれそうになかった」など。こういった彼女独特の文体で物語に安定感と多少の抑揚がつくのですが、ただストーリーがあまりにも面白くない。作中にも、穴の中から子供が湧いて出てきてみたいな記述があり、結局「穴」というのは、子孫を残す家庭というような何か大きな集団にアクセスするための入り口であり、その中へ誘うのが謎の怪物の役割で、言わば否定的に描かれる現代版不思議の国のアリスみたいなものだと解釈出来ます。
最後は(その穴に入ってしまったあとの)「私」が血の繋がっていない義祖母と義母が似てるという思いを抱いて不思議に感じていたのだけれども、そんな私も義母にどこか似ているとはっと思う瞬間で終わります。この運命めいた逃れられない血ではなく地の繋がりを、そのサイクルからドロップアウトすることを選んだ夫の兄(兄にはこの穴の正体が判っている)を使うことで奇妙に写し出すというような構造に見てとれます。
小山田さんはデビュー作が多くの文学者に喝采を浴びて、次書けば恐らく芥川賞取れるだろうと約束されたぐらいの騒がれようだったのですが(俗にいう朝吹真理子方式)、今回の作品ではさすがにちょっと弱いかなと思います。ここ取ってしまうのは小山田さんにとっていいのか、そこら辺を考えるともう少し苦しんで書いた作品を読んでみたいなと思います。ということで△ぐらいかな。

次は、岩城けいの『さようなら、オレンジ』。太宰賞を受賞したすでに単行本にもなってる本です。
物語の構造は、アフリカ出身のサリマという女性が移民として移住してきたオーストラリアで仕事をし英語を学びながら生きていくという三人称からなる部分と、Sという日本人女性がジョーンズ先生という大学時代の恩師に宛てた書簡を入れ子にした形になっています。この二つのパートが最後に書簡のパートで終わるのですが、そこのラストを読んでようやく二つのパートの本当の意味での繋がりが分かるような形になっています。(途中色々と明かされていくのですが、最後の最後を読まないと決して全てが繋がらないような技巧的な作品であります、ただここでは明かしません。)
タイトルのオレンジというのは、作中にも何度か登場する太陽のことであり、タイトルの英訳も装丁では「goodbye my orange」となっていて、myというところがまた面白かったりします。
単純な太陽というところではなく希望とか子供とかそういった可能性を内包するオレンジの目に見えない姿が印象に残ります。
個人的にはこの本のテーマは「再生」であると考えました。慣れない異国で母国語以外で生きていく人々の苦悩だったり、異国の言語で表現することの意味、そしてそれを踏まえた本当の意味での母国語への気づきなどを切実に描いている作品だと思います。そこには勿論満たされない思いであったり、成し遂げられない障壁となる存在のことであったりも描かれているのですが、それを含めて「再生」つまり太陽が毎日昇るという希望が、女性の生きる力強さ(この地で生きるという決意)とともに克明に記されていました。
三人称の部分でサリマを中心とした職場や英会話スクールの仲間の一筋縄ではいかない人生と、それを最後の書簡で見事なまでのにオレンジに染め上げて肯定する技巧的な仕掛けの部分には、月並みですが驚くと同時に心が温まりました。
それほど長くないので、海外渡航の経験があったり、異国の文化に興味がある女性は是非読んで欲しいなと思います。文字通りすごくいい本です。
ただ、芥川賞的にはあまり向いていないというか、委員の一人小川洋子がこの本の帯でべた褒めしてたんで、そういう優しい物語を書く女性作家とか、宮本輝とかも案外靡きそうですが、最近のシビアな委員の顔ぶれをみると、芥川賞の系統的に受賞する可能性はさほど高くはないのではと思います。ということでこれまた△で。
ただ、今回の候補の中ではダントツに皆さんに読んでほしいなと思う作品ではありますのでそこら辺は念押しさせてもらいます。

次は、山下澄人の『コルバトントリ』。コルバトントリの意味はググっても損はないかと思います。
最近ではほぼ2回に1回はノミネートされ、今や哀しいかな、かませ犬的な候補作製造機になってしまったのかと思わせるほどです。
登場人物の間をカメラ的な視点を持ったまま魂が憑依したり、時空を超えたり、オオカミ目線になったり、シャチ目線になったりと毎回あまりにも読みにくくて驚かされますが、今回もいつもの山下節満載の作品となってます。ただ今回は改行なく時制が変わったり、さっきまで主人公だった人が店から入ってくるのを気づけば別の人の視点から見てるなんていう複雑すぎるつくりではなかったです。もちろん他人と自分の境界や時空の境界は見事なまでに溶け合って一緒くたにはなっていますが、辛うじてその仕切りは見えていて、恐らくそれは今作の中心となって描かれているのが「家族」だからではないかと思います。
ほかの候補は2回ずつ読みましたがこれだけは3回読みました。勿論家族の話だったので、家系図的なメモを取りながらです。
ストーリーを説明するのは無理に近いのですが簡単に説明すると、一人称の「ぼく」と、時空を飛び越えて僕の家族の過去未来ににアクセスする「ぼくの意識」によって物語は作られています。最後ちょっと複雑になるのですが、ぼくの意識は最後までどこか固有の人に憑依することはなく、同じ男の子が父であり僕であり僕の息子であったりというのはありましたが、意識自体は常に客観性を保っているというところに新しいというか今までなかった、物語を分かりやすくするための工夫のようなものを感じました。
家系図のメモを載せれば全体が分かりやすく示せると思うですが、なんかそれもかっこ悪いので、感想だけ書きます。
僕は正直今回初めて山下澄人を攻略した感じがあります。
書き手がここまで譲歩をすることで、読み手もなんとか頑張れば理解することができるというのは、円城塔が以前同じように前衛すぎる作品で候補になっては落ちを繰り返した結果、最後に少し妥協をしてナボコフとかを使ってひらけた物を書いた事で受賞に至った経緯と似ている気がしています。
今後山下氏の本を進んで読みたいとは思いませんし、もう候補になった時に毎回真剣に向き合うのも億劫だと思うので、今回は本当に個人的に凄く良かったと思うし、僕はこれに取ってほしいという意味を込めて◎を打ちたいと思います。一部で可能性としては上の2作よりさらに低いと言われているみたいですが、『コルバトントリ』単数受賞なら明日は新橋とかで酒飲みながらこれ朗読してニュース23とかに取り合げてもらえるように頑張ります。

さて、最後は松波太郎の『LIFE』です。
今回はリアリズム小説が候補に一作も挙がっていないという事が言われているらしく(いとう氏の作品はリアリズムではないという確認はしました)しかし、僕はこの作品は冒頭に演説シーンがあるのですが、これを完全に主人公の妄言と捉えれば立派なそして今回の作品の中で唯一のリアリズム小説だと思っています。
主人公は猫木豊という男で、その彼女「宝田」(たまに純文学の作品で苗字が宝田が採用されることがありますが、僕はその度その作家にシンパシーを感じざるを得ないのです)との自堕落な生活が三人称で綴られていきます。作品を支配している空気の一つが、この猫木という男のダメさ加減で、バイトもろくに続かず、家でⅬ4(テレ東の情報番組、もうここらへんで僕の胸はキュンキュン鳴ってました)見るのが日課と得意げになってるあたりに、終わってんな、いや始まってんな、みたいな、つまり言葉にできない底抜けの明るさとかを感じます。冒頭数ページで宝田の妊娠が発覚して、猫木はこれはそろそろ俺も動かないとと頑張る訳です。うまくいかなかったバイトも次第に慣れてきて(その間に時給とか求人誌と違うことで文句をたれたり雇用保険のことを理解できなかったりとありましたが)怒られなくなって嬉々とする猫木とは反面、宝田のおなかの赤ちゃんは思ったように体重が増えずに、その後障害がある事が発覚するという展開につながっていきます。
この物語を、ユートピア的な社会の切り取り方と解釈する方が今のところは自然なのでしょう。
しかし、僕はこの猫木の根っからの明るさというか不安や恐れを知らない部分が、これから僕らが作っていくべき「新しい社会」に起因していればと夢想したりしました。
例えば、両親ともに非正規であっても子供が2人とかきちんと育てられる社会を作っていく(ちょっと例としては過激ですけど)、つまり、破綻しかけているいつの時代のものかも分からないような黴臭い制度や法律を無理やり当て込んでバグりまくってる現代社会に希望なんてないので、その根本のシステム(OS)を書き換えた先の社会においての若者の物語であったならば、希望を抱けるなと思ったりもしました。そんなことを含めて、メッセージ性の強い作品だと思います。
順番前後しますが、作中特に衝撃的な部分の一つを紹介すると、産婦人科医からおなかの子供の染色体の異常の写真を見せられた猫木が
(・・・・バリ3になってる)
って言うわけです。多分その写真かなんかで見せられた染色体が携帯の電波のように見えたんだと思うのですが、その後、「息子はバリ3だし人の痛みがわかるやつになると思うな」って言い切ってるところで、さっき冒頭で書いた妄言の演説(猫木は自分をだらだら且ふらふらしてる王国の国王として演説を定期的に行っています。)を自分の生まれてくる息子に王国の「二代目」として託すようにして物語が綴じられます。ここらへんもなんか衝撃的でもあり且感慨深いものがあったりします。
すらすら読めるし内容も面白かったのですが、まぁ取ることはないと思います。
▲くらいですかね。

ということで、取りあえず明日には間に合った。いとう氏が受賞会見で寒い事言ったりすると、毎日毎日「今年一番の寒さです」なんて言われてるのにも拍車がかかり、僕は寒くて生きていけないので、ここは是非山下澄人の「こんばんは、舞城王太郎です」とか明るくいきたいものです。

http://live.nicovideo.jp/watch/lv162754934

明日ここで発表の瞬間と会見の模様が見れますので、Ⅼ4とか見てる人は是非のぞいてみてください。

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