病院に行った。彼女の名前を伝え病室を聞き出して訪ねると、ベッドの四方にはぴったりとカーテンが張り巡らされていた。
恐る恐るカーテンを捲ると、眠っている彼女の身体にいくつも管が下がっていた。
自分が普段眼を瞑っていた事が急に表出したかのような光景に呆然として暫く立ち竦んだ。
勿論大した病気では無い。
しかし否応にも無くイメージが湧いてくる。
死のイメージ。
15年程前に祖父が亡くなった。
自分にとっては近しい人が去った初めての事だった。
末期癌で、最期には苦しむ事が無い様にと薬が投与された。
普段関わりの薄い、親等の近い者だけが最期に病室に通され言葉を交わしに行った。
自分は祖父を愛していた。祖父も自分を愛していた。これは揺るぎの無い事実だったと思う。
子供だから、孫だから、まして血が繋がっていないからという理由で遠ざけられることの意味が全く分からなかった。それは今も分からない。
死のイメージ。
これから歩行訓練がある。見られたくないから帰って、と彼女は意思の強い眼で僕に言った。分別のある大人を演じて病室を出た。
初めて結婚しようと思った。
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