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又吉直樹『劇場』を読む。

又吉直樹『劇場』を読む。 Posted on 2017年3月21日Leave a comment

又吉直樹『劇場』を読み終える。
『火花』を読んだときに、芸人を主人公にした職業小説ゆえのリアリティが又吉にしか書けないものだと思ったが、同時に次は大変だろうなとも思った。
しかし、そんなことは全くなかった。
劇団を主催する永田とその恋人沙希との話。
物語は永田の「僕」の一人称で語られる。

この永田が重症。小劇場や芸人・バンドマンに見られるような夢追い人属性に加え、過剰なまでに他者を拒絶する。その配分されない他者の全てを沙希が受け入れる。『火花』にもあったダメ男と健気な恋人というのは又吉の得意な設定。
ありふれてはいるものの個々の話の真実味に胸が詰まる思いがした。

不器用な永田を擁護しつつ、健気な沙希に安心させられる。
もちろんこのような関係が続くことはなく、鈍感な永田が関係を維持するための沙希の努力にハッとする場面など、沙希の思いの残滓に必死に火をつけようとする小さく大きな姿に胸が千切れそうだった。

ただ、それだけ。ただそれだけなんだけど、永田のダメ男ぶりや沙希の可愛らしさ、仕事関係の青山という人物とのメールのやり取りなど、小説として引き込まれる部分も多かった。

途中から、回想のように書かれている地の文に気づいて、ラストシーンこそどちらに転ぶかという終わりだったが、僕があれを思い出しながら書いてるということは、ふたりは上手くいかなかったんだろうな。周りは上手くいくはずないと思っていたふたりだったが、少なくとも僕には最強のふたりだった。

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