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もう一冊の掌編集である『gift』とは似ているようで全然違う。
あちらはアイデア集というか、小説が萌す瞬間に焦点を合わせた作品だった。

この本が語ろうとしているものは、もっと掴みがたく、もしかしたらもっと切実なものかもしれない。
それは、現実というフィクションに立ち向かい、生き延びる助けになるフィクションがあるとしたらどんな姿をしているのか、ということだ。
その点で、古川日出男の小説は坂口恭平の『現実脱出論』と接続することができるのではないかと思う。

否定や逃避では現実をより強固にしてしまうだけだから、個々人の思考(空間認識)に還る=脱出という考え方は、古川日出男の作品にも見出せる。

たとえば本書の『アップルヘッド、アップルヘッド』。
ある建物にいる人間が被っていたヘルメットを脱ぐ。
同時に別の建物の人間が同じ色のヘルメットを被る。
それを「ほら、アップルヘッドが移動した。宙から、宙に!」と言われても、何だそりゃと思う。
でも、これは一つの発見ではある。
あるいは『聖家族』で東北の田舎道に山手線を見出す子供たちや、街中の猫を数える競技にしのぎを削る『LOVE』の登場人物たち。

古川日出男はこのようなやり方で「奇蹟」や「救い」を語ってきたのではないか。
何かが何かを演じている、とも言えるし、違う地図で空間を読む、とも言えるし、これが小説の描くべき「本当のこと」なんじゃないかとも言いたい。

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