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ドラマ『この声をきみに』最終回
地震・衆院選・SP番組で計3回も飛ぶという不運に見舞われながらも最後まで丁寧に作られていた秀作。
大森美香の脚本が決定的な仕事をしていたと思う。
大森さんはNHKで書くようになってから全くというほど外さない。今回もNHKでないと描けないような繊細な話。

内容を要約すると、自らの主義に固執するあまり家族から見捨てられた数学者が職場で行けと言われた自己啓発セミナーの先生と出会い人生を見つめ直す話しで、凝り性の人間が綺麗なセミナーの先生に弱った心を癒やされ丸くなっていく話だったらヤバいなと思っていたのだが、勿論そんな浅い話ではなく。

麻生久美子演じる自己啓発セミナーの先生は朗読教室の先生もやっていて、ここから朗読というコアなテーマが導かれる。
主人公の数学者は言葉や声を媒介にゆっくりとつながりを模索していく一方、実は先生の側がそれ以上の問題を抱えていることが発覚する。
シンプルだけどこの逆転が効いている。

人に何かを教える側の人間がその事に確信が持てなくなる苦しさ。
特に今回は“朗読”を着想に、目に見えない言葉や声で人と人を繋いでいくという話だったので、余計にその苦しさや虚しさが際立つ。
そんな状況においても、人は目に見えないものを信用できるか。

ドラマの最後のシーンではそこへの言及がある。
金儲けや世界平和・病気を治したり犯罪を抑制するのには役に立たないかもしれない“美”と“感動”の探求が、人の喜びのためにあると。
「生まれてきて良かった」と思える瞬間を、目に見えないものから感じ取る豊かさことが、人生なんだと。

数か月ぶりに再会した数学者は今日が誕生日だと先生から唐突に打ちあけられ、耳元でこうささやく。「この声をきみに」
その瞬間、目に見えない声は贈り物になり、ささやくために交差した横顔は唇を重ねた場面を想起させる。
決して目には見えないが、それを信じて繋がる人と人の形がそこにはあった。

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