映画『ROMA/ローマ』

 聞いていた通り冒頭のシーンがまず凄くて、床の掃除を延々と映す映像で美しさを感じさせられることに驚いた。床を洗う水が起こす波と、水に映る上空の飛行機が結末と呼応していた。

 『ゼロ・グラビティ』が宇宙飛行であるのに対して『ROMA』は時間旅行なのか。この作品は(カメラの視点を借りた)語り手の記憶や回想というよりも、その裏側で起きていたこと、当時は知り得なかった出来事の別の顔を、過去に戻って眺めている印象を与える。

 固定された視点による長回しは、懐かしい人に触れることも目の前の悲劇を止めることもできずにただ見ていることしかできないもどかしさがあり(いくつかのシーンは早くカメラを止めてあげてと思った)、決定的に過ぎ去ってしまった時間だということが強く感じられた。

 主人公の恋人のフェルミン(クソ男)や武術のコーチの芸人やその門下生たちや武力抗争を引き起こした男たち等、「マッチョなもの」に対する批判、戯画化する視線を感じた。フェルミンが全裸で棒術を披露するシーンは色んな意味で面白い。

 悲痛な出来事が映し出される一方で愉快なところもある。一家の父親が高級車を車庫入れする場面の妙に凝った演出とその結果。同じ車を運転してド派手な傷を拵える母親。

 一家にある変化が起きた後の母親の車庫入れの場面。その出来事を乗り越えて小型車に買い換え、古い車で最後に家族旅行に行く。主人公を病院に運ぶのもこれらの自家用車だ。車は出来事を見届け、登場人物の心理状態を表す、『ROMA』のもう一つの語り手に思えた。

 「識者が絶賛してるからきっと難しい作品なんだろうな…」と観る前は身構えていたけど(実際よく読み解けてはいないけど)、良い映像作品を観たな、という充実感があった。

 自宅のテレビやPC画面だと集中が途切れる怠惰な観客なので、ネット配信の話題作を劇場公開してくれるのはありがたい。

 余談だが、観始めて真っ先に浮かんだ言葉は「犬を散歩に連れていってあげればいいのに…」だった。

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