映画『霊的ボリシェヴィキ』を観る。

どことも知れない施設に集められた外見も年齢もばらばらな男女。車座になり、中の一人が語る話に耳を傾けている。語られているのはある囚人の死刑の間際に起きた不気味な出来事だ。語り終わると、参加者のうちの若い男がつまらなそうに「結局、人間が一番怖いとしか思えない」と言う。するとすぐさま、会の中心人物である霊媒師が彼を殴り飛ばす。霊媒師の相方の眼鏡の男が「それは禁句です」と言う。不用意な発言でせっかく集まってきた霊気が散ってしまったのだという。それから、眼鏡の男は参加者たちに向かって「こういう時はボリシェヴィキ党歌を歌いましょう」と呼びかけ、その場の人間は皆立ち上がり、スターリンとレーニンの肖像の前でボリシェヴィキ党歌を合唱し始め、『霊的ボリシェヴィキ』というタイトルが画面に現れる。 正直爆笑した。 なんだこの映画は、と思った。わけがわからない。しかしながらこの映画、とても面白いのだ。 この映画について考えようとした時、まず頭に浮かんだのは「怪を語れば怪に至る」という言葉だ。 この作品は文字通り、「怪を語る」映画である。なんといっても、登場人物がただ座って怪談話を聴かせているだけの場面が大半を占...

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斎藤工・監督の初長編作『blank13』を観る。

斎藤工・監督の初長編作『blank13』を見てきた。良かった。 70分という長編にしては短い尺の中で隅々まで丁寧に作られていたという印象。斎藤工の映画という芸術に対するフェティッシュゆえだろう。冒頭の葬儀の大きさの比較から、回想の差し込み方、タバコや自転車や野球といった道具の使い方、脇を固める名俳優のたちの個性の引き出し方まで、全てにおいて最もベタな選択肢を繰り返し選択し続けているにも関わらず、そのベタさは映画を愛する者ゆえのベタであることがひしひしと伝わってきて、見ていてとても心地よかった。 冒頭とラストで全く同じシーンが出てくるのだが、冒頭では無機的で暗く冷たい印象だったそれが、ラストには暖かみのある画に見えたこと。 この1時間でほんの少し世界が変わったと実感できたので、それが良かったと。 葬式シーンも含めいいシーンたくさんあるんだけど、特に時空を超えた連綿とした流れを感じたのが、 父親に八重樫のオープンスタンスを教えられる場面、それをふと思い出していたんだと気づかせる葬式中の高橋一生の顔アップ、近くの球場と先ほどまで居た母がいないカット。 台詞なし画で繋げただけで、今と昔の状況が...

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哲学 – 賭け – 愛するということ

パスカルは神の実在に賭け、アインシュタインは神はサイコロを振らないと言い、カエサルは賽は投げられたと行動し、ハイデガーやサルトルは企ての中に身を投じることをエンドースした。 哲学的な認識と実践のあいだには決定的な亀裂があって、それらは二元論的に制御すべきで一元論的に統合することは出来ない。 しかし、認識と実践のあいだにある飛躍、死を覚悟した跳躍というのは? それは、まさに賭けというものなのではないだろうか。 賭けは、人間にとって強烈で不思議な魔力を持っている。ギャンブラーであれば、赤のカードが5回続いた次には黒が来るのではないかと流れを感じ取ってしまうはずだ。 奇妙な話ではある。確率的にいえば、これからの出来事とこれまでの出来事には因果関係はない。しかし、人はそこに流れを見出してしまう。あたかも、ヒューム的な違和感というか、有らぬものをあたかも有るかのように感じるのだ。 ある意味では、人生自体、賭けと言えなくもない。もちろん、僕らはディーラーではないからほとんどの場合には、はじめから負け戦だけれど。 他者を愛するということも賭けである。 僕らに、彼女らの気持ちは解りえない。応えてくれる...

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NHKプレミアムドラマ『平成細雪』を見る。

昨日・今日とNHK総合で再放送されている『平成細雪』。 プレミアムでやってる時に見れず、先輩に良かったのでと焼いてもらったのを見たけど、とても良かった。特に脚本の蓬莱竜太がものすごく上手い。もともと、演劇畑の人でドラマをあまり書いていないみたいだけれど、この人にもっとドラマを描いて欲しいとおもわず思ってしまった。 タイトルの通り、ベースには谷崎の『細雪』があり、時代設定を平成に置き換えている。 平成4年、4姉妹が生まれた老舗企業の経営破たんの話から物語は始まり一見すると昭和のような世界観で物語は進行するが、バブル崩壊以降の数年間というのは否応なしに昭和の幻想を纏っていたはずで、年号が代わりバブルも崩壊したにも関わらず昭和という時代を捨てきれずにいる斜陽的な世界、そしてそこから平成という悲劇が始まる暗示こそが物語としてのメッセージなのだろう。 「そして1か月後、阪神淡路大震災が関西を襲いました。  長い長い失われた時代の始まりです。」 ドラマのラストがこのようなナレーションで締められていたこともその証しとなる。 柄本佑演じた板倉を始め、各人物の描き方もとても丁寧だった。 4姉妹で言えば中...

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映画『犬猿』を観る。

吉田恵輔監督の映画『犬猿』を見た。 前作『ヒメアノ~ル』は確かに衝撃作だったけれど、個人的にはそこまで傑作だとは思ってはなかった。 だが、今作『犬猿』はまさに見事だった。 家族や親子がテーマの作品はよくあるけれど、「兄弟/姉妹」に絞ってここまでまっすぐに描いた作品は意外と珍しいように思う。 ストーリーとしては、2組の兄弟/姉妹の日常を描いているだけなのだけれど、根底には吉田恵輔にしか出せない心地の悪さが漂い、嫉妬や劣等感が歪に浮かび上がってくる。前作の流れを汲めば、この 緊張感がどこかで爆発し、取り返しのつかないことになるんだけど、本作では何回もそんなことが続く中、結局最後までそうならない。 理由は明白で、それは「兄弟/姉妹」だから。殺すや死ねという言葉の中、裏切りや妬みが引き起こす行動の末に、「兄弟/姉妹」のあるべき姿が描かれてしまう。それは最後の台詞からもうかがえる。「変わらない」良いときも悪いときも「兄弟/姉妹」という関係は当人同士に変わらず課せられている。 それを意識しないことはできない。 常に一番近くで育てられた人間同士には、歪み反発しあうエネルギーと同じだけの尊びあえる力が...

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『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を観る。

去年見れなかった『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を見た。 僕が言うのもおこがましいが、紛れもなく映画史に残る稀代の名作。 まず驚いたのは撮影技法。登場人物の特徴の描き方や町の撮り方など1カット1カットが計算し尽されており、4時間で物語の世界のことは全て知った気になれる。 徹底的に計算したカットを重ねることで、必然的に物語の強度も増す。 この映画のテーマは冒頭のナレーションにもあるとおりに、50年代末から60年代にかけての台湾の情勢に巻き込まれていく大人とそれを見ている子供の葛藤というところだろう。 それが同時代での日本の学生運動の中心だった大学生ではなく、中学生が主人公であるというところに衝撃があり、さらに具体的な目的も見出せずただ漠然とした不安と希望の中で結果として起こってしまった悲惨な事件というストーリーのやり場のなさが際立つ。 僕は主人公の小四に大いに感情移入をすることができた。 もちろん彼の起こした事件の背景と当時の台湾の情勢は切り離せないが、途中からは彼のことしか目に入らなくなり、彼にとっての穏やかな日常を心から願っていた。それゆえに彼の未熟さをとても痛いものに感じた。...

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西洋コンプレックスとアジア的意識 – 近代/一神教/自由の意味 –

最近、アジア的なものに関心がある。 基本的に自国や他国に対する強い思い入れはないのだが、なぜアジアについてとらえ始めたのかと考えているうちに、自分の中に強い西洋コンプレックスがあるのではないかと気づいた。 アジア人として生まれたことに対する、非西欧的であることへのコンプレックス。 一見すると、かなり奇異なことを言っているように思われるかもしれないが、やはり現在の世界は西欧中心の価値観で構成されていると考えていいのではないだろうか。 世界的なグローバル化はある意味で文化的なアメリカナイズという側面が強く、世界中どこへ行ってもある程度の都市ではSTARBUCKSやMcDonaldやGAPの店に出会うだろうし、道行く人々の手の中にはApple製のiPhoneかGoogleのAndroidのスマートフォンが握りしめられている。彼らが休日を過ごすのはローマ-イギリス-アメリカ起源のショッピング・モールだし、日記代わりに記録を残していくのはシリコンバレーで開発されているFacebookやInstagramやTwitterにである。 精神的にも経済にも、マックス・ウェーバーが語ったところの西洋におけ...

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木曜ドラマ『BG~身辺警護人~』初回/第2話を観る。

『BG~身辺警護人~』初回。 「アイムホーム」以降、主人公感のない主人公を演じるようになったキムタクだが、本作もキムタクが演じる主人公としてはかなり地味。 共演者との兼ね合いやプロットの精緻さでキムタクのアクを抑えようとする手法には、もはや新しさはない。 ただ、翻ってここがテレ朝の狙いでもある。 今のテレ朝ドラマは数字だけをみると、視聴者を取り込むこと最も成功している。それは、ドラマ自体が目新しさや複雑さを捨て、いかに安定した高いクオリティを維持するかのみを目指している結果だろう。本作もその大きな潮流の一つとして見て取れる。 井上由美子の脚本に破綻は考えにくく、このまま抜群の安定感で最後まで続くことが予想できる。民間警備というテーマはNHKの「四号警備」で業務内容等描かれていたので特に触れる箇所はなく、あと物語の見どころとして触れるなら、「踊る…」の柳葉-織田を彷彿とさせる江口-木村の立場関係。 まさかこの年齢でキムタクが所轄の刑事ばりにエリートに意見しながら仲を深めていくというありふれた展開にと思わなくもないが、恐らく視聴者はそこを求めている。それにやさしく答えて数字を稼ぐのがテレ朝...

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金曜ドラマ『アンナチュラル』第2話/第3話を観る。

金曜ドラマ『アンナチュラル』第2話 今回は初回以上に石原さとみ演じる主人公・三澄ミコトの過去や現状に踏み込んだ内容だった。この回を見てこのドラマは石原さとみのためのものだと思った。 近年の石原さとみといえば、映画「進撃の巨人」「シン・ゴジラ」ドラマ「校閲ガール」など、リアルの解像度を故意に下げる事で漫画の主人公を地で演じる(3→2.5次元)という過剰にデフォルメされた演技が目立っていた。 人間の内にある数百という複雑な感情を敢えて10個ほどに限定してスイッチ一つでその場に最も適した形で分かりやすく提供するという彼女の驚くべき技法は様々な所で話題になったが、今回はそれとは全く逆の複雑な主人公を演じてみせている。それを引き出す一つの要素が過去のトラウマだろう。 一家四人の練炭自殺で唯一生き残った幼少期の記憶というのは今回含めて今後も事あるごとに触れられる要素となる。その度に彼女は今も十字架を背負っていますという姿を見せる。さらに彼女の今の哀しみ・強さ・明るさなどは周囲の人間と接する姿や表情から浮かび上がってくる。 絶対絶命の状況で窪田正孝演じる後輩に語った死の恐怖や生への執着の姿勢、助かっ...

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TVドラマ評 2018年1月クール作品の紹介

インフルが直撃した影響で1月ドラマの初回時期にぼーっとしたまま過ごしてしまった。 今期はテーマが比較的多岐にわたっており、ドラマごとの特徴が良く出ている。ただ、どこかで見たテーマや内容が多いのも事実。 丁寧につくるか見たことないものをつくることに注力できるかだと思う。 今のところ「anone」「アンナチュラル」「MASKMEN」「電影少女」「隣の家族は青く見える」が良い。 anone 「anone」の先が読めない(つまりストーリーがある)感じは最近の坂元作品では異例。このままぐだぐだになっていくことも充分あり得るが、要所のメッセージを逃したくないという楽しみ方ができる。 アンナチュラル 「アンナチュラル」は質の高い海外ドラマを目標にという記事を目にしたが、設定や構造は従来の日本の連ドラの域を出ているとは言えない。ただ初回に関して言えば、話を二転三転させ真実に辿り着くまでの息もつかせぬ展開は良かった。野木亜紀子の1話完結の謎解きが価値を持ったということなのだろう。 勿論、死因を解明するだけが主題ではなくそこに至るまでの死者の個性や社会的状況から社会派というポイントを加算するのだろうが、そ...

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